金融そもそも講座

高水準の金利と株価

第341回 メインビジュアル

サウジとロシアの原油減産路線での協調に加えて、中東での新たな戦争勃発(ハマスによるイスラエル攻撃)などもあり、原油相場が大きく下がる可能性は小さくなった。分断もあって世界が再びディスインフレになる可能性が小さい中で、「株価はどう動くだろうか」というのが今回の問題意識だ。

結論から言うと、上下の動きはやや激しくなるが、金利の上昇が極端になる場合を除いて、株価の上げ下げに与える影響は最終的には五分五分だと筆者は考えている。我々はいつも「金利が上がると住宅ローンの返済が苦しくなるし、借り入れをしている企業の返済はきつくなるし、そもそも借り入れを起こすハードルが高くなる」とのメディア報道を耳にしている。

それは確かだが、企業や個人が何も手を打っていないと考えるのは間違いだし、世の中には個人でも企業でも大きな金融資産を持っている一定の層がいる。かつ理解できる範囲の金利上昇なら、企業は「それ以上に収益を上げるチャンスがある」と思えば、多少金利が上がっても企業活動のレベルを落とさず、活発な企業努力を展開するだろう。

余裕資金も持つ企業や個人にとっては、一定範囲の金利高は基本的には恩恵である。なぜなら資金のかなりの部分を低利の銀行口座に置いていた人達に、資金を動かす誘因を与えるからだ。今の日本のようにほぼゼロ金利の預金に、例え2〜3%にしても利子が付くことになれば、それはかなり大きい。多分デフレの中にあっては、実質金利が高かったこともあって超低い名目金利でも銀行口座に預金を残していたのだろう。しかしインフレが高くなる中では、「(自分のお金を増やすために)何か使える運用方法はないだろうか」と探し始めるだろう。インフレは手持ち現金の価値が下がることを意味するからだ。

利上げに冷たい世間

世の中の全体的な傾向を言うと、世間は利上げに冷たい。それは利上げによって被害を受ける人、企業が周りに多いからだ。「お金を借りていた人の返済義務が増す」「これで家を手放さなければならない人が出てくる」「新しい企業を興すときのコストが高くなる」「一部企業は、行き詰まるのではないか」と言った報道一色になることもある。

政治は「民衆の味方」(少なくともそれを装う必要がある)だから、弱い企業や多数の住宅ローンを抱えた人々に打撃になる利上げには通常はあまり良い顔をしない。メディアは各チャンネルでローン返済に行き詰まった人々が出てきた、といった話を取り上げる。それはしばしば事実だが、「皆に見てもらえるから流している」という側面もある。メディアもまた、「より多数の人々の味方」を志向せねば視聴率、聴取率を稼げない。

しかし一方では金利が上がってほっとする人達もいる。例えば退職金をもらって年金生活の人は、預金に利子らしい利子が付くようになるのはうれしいだろう。また別に退職していなくても、何らかの形で金融資産を持っている人達は、株や債券だと選んだり売買したりする必要もなく、預金に一定の金利が付くことに歓迎のはずだ。集まった資金で組織を運営している財団のような団体も、危険な資金運用をせずに手持ち資金が利子を生むような世界を望むだろう。

企業でも同じだ。あえて名前は出さないが、銀行並みの流動金融資産を保有する無借金の会社は日本にも多く、世界でもそれは同じことだ。事業を長く、そして成功を続けた企業は多い。そうした企業は世界各国に存在する。金利が上がるとまず新興企業群が売られるのは、基盤がしっかりしていない中で、やはり金融機関から有利子資金の借り入れを余儀なくされるためだ。

プラス成長続く世界経済

全体的に見ると、世界の人口が増え続け(日本など一部の国の人口は減少しつつあるが)、技術革新や生産性の向上もある中では、アップダウンはあっても世界経済はプラス成長を続ける。戦争など様々なショックがあり中断はあったが、長い目で見ると成長を続けたのが世界経済の歴史だ。プラス成長を続ける間は、物価の上昇も自然だと考えられる。問題は成長とインフレのバランスをどうとるかだ。

成長だけを目指しても、激しいインフレが襲ったのでは人々が生活できない。単純な成長優先は政府や中央銀行が採用しうる選択肢ではない。人々が歓迎するのは、インフレを適切にコントロールした上での健全な経済の成長だ。「インフレを適切にコントロール」が、今は「2%のインフレ目標」となって世界中の中銀の大きなコンセンサスとなっている。筆者は日本のように人口が減少しつつある国は「1.5%とか1.75%のインフレ目標もありでは」と思っているが、今回はその点には触れない。

食糧生産力の限界から、日本でも世界でもあまり人口が増えなかった中世のインフレ率は、今から見ると非常に低かったとされる。しかし産業革命あたりから技術革新の影響が増大し、加えて生産能力(特に食糧)の大幅向上で人口が増え始める。その後は人類はずっと「成長とインフレ」の綱引き状態になり、それは基本的に今でも続いている。つまり、成長にブレーキを掛けるために金利を引き上げ、逆に成長を加速する為に金利を引き下げる行為(政策)は繰り返し世界各国で行われてきた。

言ってみればこの2つ(成長と物価上昇)の間にはずっと緊張関係が存在したことになる。私のようにまだ大学生だった頃に第一次石油ショックを経験し、未曽有のインフレに自分自身が直面した経験のある人間は物価の2つの側面、つまり「異常高」と、逆に「異常低」の2つを経験している。これはよく書くが、私が子供の頃の郵便局定額彫金は4%とか5%とかが普通で、当然だが私の祖母は利子で孫に小遣いを与えることができた。

しかし1990年(米国5.4%、日本3.07%)を最後に、世界は非常に長い低インフレ期に入る。それはなんと2019年まで続いた。なおかつその間には、日本、米国などいくつかの国でデフレ懸念まで生じた。その継続期間は30年弱に及ぶ。

デフォルト化した低インフレ・低金利思考

30年間同じ状態が続くとどうなるか。それはその環境(低インフレ、低金利)に慣れ、そうなのが当然だと思う人が大部分になるということだ。30年経てば、人口の構成員は大きく代わる。筆者などよりも投資の世界に長く居る人、例えばウォーレン・バフェット氏のような偉人は、「今までの低金利、低インフレが終わって金利と物価が上がり始めた。これが普通」と思っているだろう。

これまで何回も指摘したようにこの30年にわたる低インフレ・低金利は、最適地生産を推し進める世界経済のグローバリゼーション(北朝鮮以外の国が企業にとっての生産適地選択の候補地となった)とネット社会の急速な発展(割安を可能とする流通システムの樹立など)の中で進んだ。それはそれですさまじいインパクトだった。

しかし今の世界は分断であり、中国進出の西側企業は一部撤退を始めている。ネット社会の物価引き下げ圧力も、一応はランスルーしたように見える。今後進むのは企業の戦略的適地生産システムだ。半導体を見よう。米国は台湾(一大半導体生産基地)が中国の手に渡らないようにする一方で、韓国と日本を巻き込んで西側での「半導体ロジスティクス」を構築しようとしている。それは「安さ」を求めてではなく、「戦略」を求めてだ。

実は筆者は米国のマーケットが金利の上昇に異常なほど神経質になっていたことに関して、「それは金利上昇や金利の高止まりに慣れていない市場参加者が増えてしまったため」と思っていた。世界の歴史から見れば「当然その程度のインフレ、金利の上昇はあるよね」と思える状況でも、マーケットが非常に神経質だったからだ。しかしマーケットはそのうち慣れるだろう、と考えていた。

10月の第2週の世界的な株価の動きを見ると、低金利に過剰になれていた世界のマーケット関係者の間でも、「合理的な金利の上昇は恐れるべきではない」との見方が広がってきたようにも思える。金利上昇は「経済には打撃」を報道されることは多いが、実はマーケット的にはメリットもある。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。