金融そもそも講座

依然、力あるアメリカ経済

第335回 メインビジュアル

7月の頭に一週間弱だが米国に足を伸ばした。新型コロナウイルスもあったので5年ぶり。各種規制の緩和が進んだらすぐに行こうと思っていた。Seeing is believing いつも情報を見ているにしても、あまりの空白は良くない。今回行ったのは米国南西部の街サンディエゴ。

目的は二つあった。一つはもちろん米国経済の現状を現場感覚で見ること。米国にはかなり以前に4年も駐在したことがあるし、その後も定期的に行っている。しかしコロナは日本もそうだが世界中の国を大きく変えた。世界の株式市場をけん引する米国の経済がどう変わったか。それを見たかった。

もう一つはMLB。5年前の2018年もアナハイムでエンジェルスの試合を見て、移籍直後の大谷の活躍ぶりをこの目で見た。今回も「それから5年後の、MLBでの二刀流としての地位を確立、今年アメリカンリーグMVP最有力候補のオータニ」を見たかった。サンディエゴはダルビッシュが所属するパドレスの本拠地で、運が良ければ二人の投げ合い、悪くても大谷のバッティングが見られるという算段だった。

むろん今年春時点の予約なので、希望がかなえられるかは運次第だった。結果を言うと、大谷が投げるのは見られた。しかし打ち込まれて負け投手。ホームランも出なかった。逆に大谷が二球連続のホームラン被弾というレアシーンを目撃。たぶんこれは一生の思い出(記憶?)。巡り合わせ的には大谷とダルが投げ合う可能性もあったが、ダルビッシュは体調不良で結局見られず。

しかし野球の2試合観戦以外は街を回ったり、メキシコとの国境に接近したり。時間がたっぷりあったので、今の米国を肌で感じることが出来た。今日はそれらに関して書こうと思う。

エアコンシティ

インド南部にバンガロールという街がある。その街のあだ名はかつて「エアコンシティ」だった。インド南部にあって暑いはずだが、標高が高く(1000メートル弱)て、夏でも比較的涼しい。冬も寒くない。「いつでもエアコンが効いているような街」というところが名前の由来だ。1990年代に実際に行ってみて、そう思った。

サンディエゴは言ってみれば、「米国のエアコンシティ」だ。「暑いだろうな」と勝手に予想して渡航数日前に気温をチェックしたら驚いた。東京より最高温度が毎日5〜6度低い。夢かと思った。実際に行ってもそうで、7月の頭で日中の最低15度前後、最高25度前後の間だった。かつ除湿も効いている。日差しは強いが、風と空気が爽やか。そして先々の天気予想を見ると「ほぼ連日の晴れ」続き。

全米第8位の大都市(人口約138万人)にしてハワイの過ごしやすさを持つ。「素晴らしい」と思ったが、そう思うのは私だけではないようだ。米国にもこの恵まれた気候に引かれて、かなり多くの、しかも優秀な人達が集まっているようだ。実際に街は瀟洒(しょうしゃ)だし、レストランも多い。

街を歩いて思ったことは以下の点だ。

  • 1.活気あふれる街=独立記念日がらみの連休中に当たったからかもしれないが、街は活気にあふれていた。すさまじい人が思い思いの服装で街に出て、陽光を楽しんでいた。米国からの日本でのニュースというと「銃撃事件」「トランプ起訴」などなど暗いニュースが多いが、サンディエゴで過ごした数日間は、「そんなのどこ吹く風」だった
  • 2.顕著な人手不足=食事はペトコ球場の近くのガスランプ街かハーバーアイランド地区のレストランだったが、全体的に見て「人手不足感」が強かった。日本にもメディアを通してその報道は数多かったが、「誇張ではない」と思った。レストランもうまく回っていないところが多かったように思う
  • 3.不動産価格の高騰=人口が増加しているサンディエゴ特有の現象なのかもしれないが、現地在住25年という方の説明を聞いて、人気エリアの不動産価格の高騰ぶりはすさまじいと思った。特に日本人観光客にも人気のラ・ホーヤなど

still alive and strong

街を歩きながら筆者が考えたことは、「ややピークを過ぎたかもしれない。しかし米国は依然として生き生きしているし、パワフルだ」というものだ。何せ街に繰り出している若者の元気が良い。渋谷なども元気が良いが、サンディエゴの若者の元気さはちょい別物だ。渋谷は基本的に若い女子の街だと思うが、サンディエゴは男女関係なく元気が良い。彼らの行動には渋谷のようなパターンがなく、思い思いに服装を含めて自由だ。

街全体に「何かを生み出す」力があふれているように思う。日本のような「活力はまあまああるが、何かとてつもないものが生まれそうではない」状態ではない。多分サンディエゴは数年後には凄く変わっている。そういう未完成の魅力がある。それはある意味「米国という国」にも通じると思う。

このサイトで私の文章を読んでおられる方々は、「投資の考え方の基本は?」「つぎはどこが?」を探している方が多いと思う。その視点を大事にするなら、いくら「日本株ブーム」が来ていようがいまいが、米国という投資先は今後も重要な地位を占め続けると思う。

政治が宗教くさい印象はあるが、なにせ米国は基本的に「融通むげな国」だ。ヒトが入り、モノが入り、マネーとアイデアが試される。多分ピークを過ぎた大国であろうと米国のポテンシャルは、アイデアや社会システムの自由さから世界でずぬけた存在だろう。そういう気がした。

我々の選択は、常に相対的だ。その国が一時より輝いていないように見えても、その他の国がさらに輝きを失っていたら選択の先は決まっている。「その国」の一つは依然として米国だと思う。

米国の若者には、日本や中国、それにロシアの若者にはない元気がある。社会の活力は重要だ。最後はその国を形作る。米国は今までもつまずいてきたし、これからも多分つまずく。しかし、私の目には「USA is still alive and strong」と思った。

浸透圧受ける国境

国境にも足を伸ばした。最初はメキシコ領北限の街ティファナにも行こうと思ったが、街の治安が最近悪化しているとの報告が多かったし、米国から国境を越えてメキシコのティファナには入れるが、メキシコから米国に再入国するのに「数時間はかかる」と言われて今回は辞めた。サンディエゴのダウンタウンから電車で終点まで行き、国境の高いフェンスを見るだけにした。

足を開けば2つの国に立つことが出来る陸の国境は日本にはない。ベトナムと中国などいろいろなところで国境をまたいだ筆者だが、国境はいつでも心がザワつく。しばしば人間的縄張り争いの原因になるからだろうか。ティファナにはメキシコからの取材で北上して入ったことがある。「米国に入りたい人々」が大勢いることは、簡単に想像できる。

なにせティファナは、中南米などから実に長い距離を移動して米国入国を希望する人々が滞留する街だ。国境では浸透圧を感じた。圧倒的な富とチャンスの差。人口当たりの殺人件数が異常に高いホンデュラスなどでは、メキシコの先の北を目指すしかない。しかしそこには高い壁(物理的、法的、政治的)がある。それを見ながら筆者は、「彼らにはまだ米国が夢の国なのだ」という思いを強くした。

地政学的観点から米国が「ピークを過ぎた大国」なことは明らかだ。サウジアラビアとイランは、中国の仲介により米国抜きで外交関係を樹立した。アジアでもその影響力は中国に押され気味だ。今一番米国を頼りにしているのは欧州諸国や日本・韓国だが、米国には期待にすべてに応じる余裕がなくなっている。

「しかしそれでも米国は磁力を持ち続ける」と筆者は国境の壁を見ながら思った。磁力とはヒト、モノ、カネを集める力だ。中国が米国のような磁力を持つことはあるだろうか。多分ない。それは包容力の差だ。ロシアや中国は自ら投資適格国の地位を放棄しようとしているところがある。しかし米国は傾いても「投資適格国」ではあり続ける。そこが重要だ。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。