株式ってなぁに?

16 「株価のクセ」に注目~「Sell in May(5月に売れ)」を解き明かす~

相場格言の一種「アノマリー」とは?

株式市場には数多くの「相場格言」が存在します。相場格言とは投資の心得などを説いた言い伝えのようなものでその歴史は長く、古いものは江戸時代から受け継がれています。相場格言には相場の世界に身を置いてきた先人たちの知恵が詰まっており、現在も参考になるものがあります。
その相場格言の一種にアノマリー(Anomaly)というものがあります。
アノマリーは一般的には「例外・変則」などと訳されますが、株式市場におけるアノマリーとは、原因はあるかもしれないけれど経験として語られることが多い事象のことを指します。例えば「1月効果」(1月の収益率が他の月より高くなりやすい)といった特徴的な値動きの傾向など、株価の「クセ」のようなものです。「節分天井・彼岸底」など季節や時期に関連するものや、「辰巳天井」「申酉騒ぐ」など干支に関するもの、なかには「選挙は買い」といったイベントに関するアノマリーもあります。また、日本に比べて数は少ないようですが海外でもアノマリーはあり、株式を売買する際には参考にする投資家もいるようです。

「Sell in May」~イギリス発祥のアノマリー~

さて、海外のアノマリーで有名ものに「Sell in May(セル・イン・メイ) =株は5月に売れ」というものがあります。「Sell in May」の正確な起源は不明ですが、一説には150年程前にイギリスで発祥したと言われています。
実は「Sell in May」には続きがあります。「Sell in May, and go away, don't come back until St Leger day.」というものです。直訳すると「5月に売って去れ、そしてセントレジャー・デーまで戻ってくるな」、つまり「株式は9月に買って5月に売れ」となります。セントレジャー・デーとは、イギリスで毎年9月の第2土曜日に行われる競馬のレース「セントレジャー・ステークス(St Leger Stakes)」が開催される日のことです。
このレースは、1776年に創設された世界最古のクラシック競走です。
当時の貴族や銀行家、商人たちは、ロンドンの暑さから逃れるために5月に株式を売却してから夏休みに入り、9月のSt Leger dayの競馬を最後に株式市場に戻って株式を買い戻していたそうです。もし夏休みの間に保有している株式の価格が下落したら休みを存分に楽しめないかもしれません。休暇を大切にした当時の英国人とっては、夏休みの前に株式を手放すことが一般的だったのでしょう。

「競馬」から「ハロウィン」 ~イギリスからアメリカへ~


イギリス発祥の「Sell in May」ですが、今はアメリカの投資家やメディアの間でも使われています。1980年代、アメリカの経済新聞が英国株式市場に関する記事を書いたときに、「Sell in May, and go away」という言葉を英国の新聞から引用して記載し、個人投資家の間で流行したそうです。
アメリカで使用されるのは「Sell in May, and go away」までで、後半の「don't come back until St Leger day.」は使われていません。その変わりに「ハロウィン効果(Halloween effect)」がセットで使われます。
「St Leger Stakes(競馬レース)」というイギリスの秋のイベントが「ハロウィン」というアメリカの秋(毎年10月31日)のイベントに変わったようです。これに従えば「株式は10月末に買って、5月に売りましょう」となります。

「Sell in May」は本当?


では実際にはどうだったのかを、米国の代表的な株価指数であるダウ工業株30種、通称NYダウの過去64年分のデータを使って検証してみます。

NYダウの月間騰落率の平均(1960年~2023年)

この棒グラフは、1960年から2023年までのNYダウの月間の騰落率(前月より何パーセント上がったか、または下がったか)を計算して、月ごとの平均を棒グラフにしたものです。棒グラフが上に長い月は株価が上昇し、下に長い月は株価が下がったことになります。

このデータによると最も株価が下落したのは9月です。その後は10月から1月にかけてはおおむね良好な結果になっています。株価が下がっている時に買うと利益が出やすくなるため、9月は株式を買うのに適したタイミングといえそうです。その後、5月まではプラスが続くので、株価が上がり切ったタイミングで売りたい場合は5月が最適となります。
検証結果をまとめると、株安の傾向がある9月に買って、翌年の5月までに売ると良い、となります。
「Sell in May, and go away, don't come back until St Leger day.」にぴったりと当てはまる結果になっています。ハロウィンまで待つとちょっと遅いようです。「春に売って、夏は休んで、秋に買う」という昔の英国人の行動は結果的に良いパフォーマンスを生みだしていたのではないでしょうか。
株価は様々な要因で動くため、アノマリーのみに頼って売買することはできません。しかし、先人たちの知恵や経験則を現在にまで受け継いでいるアノマリーですから、判断材料の一つとして頭の片隅にいれておくのは良いのかもしれません。


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