いま聞きたいQ&A

AI(人工知能)の急速な進化が示した影響力と限界

「Chat(チャット)GPT」という対話型のAIが話題を呼んでいます。仕事の効率化や経済成長への寄与など活用メリットが大きい半面、雇用の減少や社会的リスクの拡大など悪影響も懸念されます。自動運転車などの本格普及へ向けては限界を指摘する声もあり、AIの評価を巡って今後も何かと議論が続きそうです。

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Q.AIが経済や社会に及ぼす影響について教えてください

チャットGPTは米国の新興企業、オープンAIが2022年11月に公開したもので、「生成AI」と呼ばれる人工知能のひとつです。質問を投げかけると、まるで人間のような自然な形で答えが返ってくるのが特徴です。インターネットで誰でも手軽に使うことができ、公開から2カ月で世界の利用者は1億人を超えたといわれています。

生成AIの基盤となるのは、脳の神経回路の働きを応用した「深層学習(ディープラーニング)」という技術です。深層学習によって、AIは与えられたデータから規則性を自力で探し出せるようになり、大量のテキストデータを使ってトレーニングされた「大規模言語モデル」が多数登場してきました。

大規模言語モデルでは文章の生成や要約、分類、翻訳といったテキスト処理はもちろん、画像や音声を認識してユーザーの質問に答えたり、精巧な画像を生成することも可能です。オープンAIが今年(23年)3月に発表した最先端の「GPT-4」は、米司法試験の模擬試験で上位10%に入る知的水準を獲得しており、すでに人間より賢いと見る向きもあります

こうしたAIの急速な進化・発展は、私たちの仕事や経済、社会に大きな影響を及ぼすことになりそうです。例えばメールや会議資料、報告書、広告文などの作成は、生成AIをうまく利用することで劇的に効率化できます。米金融大手ゴールドマン・サックスでは、生成AIが普及すると労働生産性が向上し、世界のGDP(国内総生産)を7%押し上げると予測しています。

生命科学の分野では、研究期間の大幅な短縮が期待できます。難病の治療薬候補を見つけたり、たんぱく質の立体構造を高精度で導き出すなど、すでにAIが研究者より短期間で成果をあげた事例がいくつも報告されています。将来的には、AIを使って新しい薬や抗体の開発も可能になると予測する研究者もいます。

一方で、AIの「負の側面」への注目も日に日に大きくなっています。ひとつは雇用への影響です。米インディアナ大学の推計によると、126の専門職のうち開業医やマーケティング専門家、翻訳者など全体の75%に相当する95職種は、チャットGPTによって多くの業務が代替されるとのこと。前出のゴールドマン・サックスは、世界で3億人分のフルタイムの仕事が生成AIによって自動化されると見込んでいます。

間違った情報や偏った意見が世の中に拡散したり、意図的に作られた偽情報が社会に混乱をもたらすなどのリスクも懸念されます。AIサービスによっては、ユーザーが入力した情報をAIの学習データとして使う可能性を示唆していて、情報漏洩などセキュリティー面のリスクも無視できません。ロシアのウクライナ侵攻ではAIを搭載した兵器が投入されているもようで、AIの軍事利用が進めば、より直接的な形で社会にとっての脅威となります。

教育現場で学生がリポートや論文の執筆をAIに依存した場合、学んだり考えたりといった知的作業の放棄にもつながりかねません。米ニューヨーク市が学校での使用を禁止したほか、日本でも東京大学や上智大学などが利用の一部制限に乗り出しており、AIとの付き合い方を巡っては試行錯誤が続きそうです。

意味や概念を理解しているとは言いがたい

AIの知能が人間を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)が近づいたといわれるなど、期待も不安も大きく膨らむAIですが、本格的な普及には時間がかかるという意見も少なくありません。例えばチャットGPTについては、質問に対してそれらしい答えが返ってくるものの、致命的な間違いも多いという欠点が指摘されています。

チャットGPTなどの大規模言語モデルでは、情報内容のアップデートに際して膨大な量の文章データを読み込み直す必要があります。そのため頻繁な更新が難しく、モデル内に蓄積された情報のなかに古いものが混じっている可能性が高いといわれます

大規模言語モデルが行う深層学習にも問題があります。そこでトレーニングされるのは、基本的に単語や文節の「並び方」についてです。膨大な「過去の文章」を読み込み、さまざまな並び方のパターンについて、それらが実際に現れる確率をはじき出します。

すなわちAIは、ある単語の後にどんな単語や文節が続くかを確率論的に学習するわけです。そのうえで、より確率の高い文字列を選び出し、表示しているに過ぎません。取り扱う言葉の意味や概念、さらには事物や事象の因果関係などを、AIが理解しているとは言いがたいのが実情です。

自動運転車や自律型多機能ロボットなどの実用化に向けては、目の前の物体や周囲の状況を、過去に経験したことのないケースも含めて見定める必要があります。いわば論理や常識、知性などに基づく「推論」の能力が求められるわけで、現状ではその点が深層学習に依存するAIの限界と言われています。

人間の子どもが言語や空間認識、社会関係などを自然に身につけるプロセスを参考に、AIの限界克服をめざした研究も進められています。ただし、現状では「犬や猫の知能にもはるかに及ばない」と指摘する専門家もおり、人間に近い知的水準を備えたAIが本当に実現できるのか、今後のさらなる進化・発展を慎重に見守っていく必要がありそうです。

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